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音を立てずに寄り添って【中亀】
新たに身に着けた此の力が半分は君の為って言ったら、きっと笑うだろう?
だから俺はそんな反応も封じてしまうように、きつくきつく、ぎゅっと抱き締めるんだ――無邪気に笑う、華奢で儚げな君を。
現在撮影中のドラマのロケを某所で終えると、俺は休む間も無く次の仕事場に向った。
ドラマロケの次は勝運としての仕事で、俺はちょっとだけドキドキしながらスタジオに向っていた。
もう何年も一緒に居るメンバーとの仕事を控えて何故に胸ときめかせる必要があるのかと言われたら其れは一つしかない。
可愛い可愛いあの子の誕生日が明日なのだ。
亀は去年のバースデーにあげたエル.モ(知ってるだろうけど俺と御揃い)を今も大事に持ってくれているらしく、つい最近なんかドラマの現場にまで持って行ってくれたのだ。
そんな可愛いことをされたら今年のバースデーも張り切るしかないだろう。
当然の如くプレゼントは用意してあるので直接会って渡すつもりだけど、邪魔が入らないと良いなぁと思って、けれど其の考えも直ぐに否定した。
(あいつらが黙っててくれるとは思えないもんなぁ)
もう家族同然のメンバーの顔を思い浮かべて、俺ははぁと一つ溜息を吐く。
実を言えば亀と俺は恋人の関係なんだけど、其れを打ち明けた時も大変だったし何より未だに妨害をしてくる。
まぁ、亀の可愛さを思えば当然なんだけどさ、其れにしたって皆して亀にモーションかけすぎだよ。
――分かってんの? 亀は俺の恋人なんだよ!!
なんて面と向かって言えれば良いんだけど、あの面子(特に魔王と帝王)を相手にすると強気には出られない。
小山とかが相手なら言えそうな気もするけど……あ、ついでに思い出したくない顔まで頭に浮かんでしまった。
某グループの王子様とヤクザまで邪魔しに来るかもしれない、と思ったらぶるりと身震いをしてしまう。
取り敢えず、まだドラマの撮りが残ってる増.田は大丈夫だろうと思いつつ、でも其の相方はどうだろうかと考えたらどんどんネガティブな気持ちになっていく。
そんなことをつらつらと考えていたら移動車は目的のスタジオに着いたらしく、ゆっくりと安定した動きで停止した。
完全に停車したのを確かめてから俺はシートベルトを外して外へ出ると足早に中へと入っていく。
受付をスルーし廊下を進んでいくと丁度タイミング良く誰かがエレベーターに乗り込むところだったらしく、俺は慌てて「あっ、乗ります!」と宣言してからカゴに駆け込んだ。
中に身を収めて一つ息を吐いてから階数を指定しようとパネルに目を向けたら其の前に先客が立っていて、後姿でも瞬時に分かった。
「亀?」
「うん、俺」
思わず名前を呼んだら当の本人は短く応えてから「何階?」と訊いてきたので俺はついつい「あ、5階」と言ってしまった。
そうしたら亀は可笑しそうに「偶然だね、俺も5階に行くとこだったんだ」と笑ってみせる。
そんな言葉と柔らかな笑顔に俺は心が蕩けていくのを感じた。
「亀も今来たの?」
「うん。中.丸もドラマのロケ上がってこっち来たんでしょ?」
「そ。いやー、ハードだわ最近」
「お疲れ様」
軽いノリで零した愚痴に亀が軽く首を傾げながら労いの言葉を掛けてくれて、たった其れだけのことでも疲れを忘れてしまうくらいに嬉しかった。
「亀だってドラマの撮影結構大変なんだろ?」
「うーん、でも楽しいよ。中.丸みたいに体張る訳じゃないし」
内心の喜び様を悟られないようになるべく普通を装って問い掛けたら、亀は明るく答えて其れから「タダで色んなワイン飲めるしね」と悪戯っぽく笑った。
そんな表情見慣れてる筈なのに何故か其の時の俺は一つ胸を弾ませて、思わず「あー、其れ良いよなぁ」と言いつつも目線を外してしまった。
すると、其れを不審に思った亀が「中.丸」と俺の名前を呼ぼうとした途中でポーンという音がしてエレベーターのドアが開いた。
其のままの空気を引き摺るのは気まずいと思い、俺は先に降りてドアを片手で制しながら「ほら、降りよ」と声を掛ける。
そうしたら亀は「あ、うん」と短く返してカゴから出ると、二人並んで廊下を歩き始めた。
其の遣り取りだけで御互いに意識が切り替えられるのは長年の付き合いゆえだろう。
やがて自分たちの楽屋を見つけて俺が率先してドアを開け亀が先に中に入るとメンバーが一斉に此方を向いた。
「皆、おはよー」
「お、亀。はよ」
「おはよー、亀ちゃん」
「ちょっと待て。俺は無視か?」
亀の挨拶に聖と上田が返すのを聞いたら、其の中身に俺に対するものは含まれて居なかったのでついつい突っ込んでしまう。
けれど、やはりやられキャラな俺は上田に「あれ、中.丸も来たの?」と返されて、其れなのに心密かに何時もの俺達だ、と何処か安心していた。
「俺が居ないと撮影出来ないじゃん」
「あれ、何其の俺は重要ポジション発言」
「いやいや、俺も勝運だってことを言いたかったんだよ」
「え、中.丸は今度から嵐に入るんじゃなかったっけ?」
「違ぇって、其れは赤.西だろ」
「其れこそ違ぇよ。あれは先生が勝手に――」
「中.丸も亀も早く着替えた方が良いんじゃね?」
「ああ、そうだな」
「だから俺の話を聞けってば」
「お前はクレ.ケ.ンのケ.ンさんか」
そんなふざけた緩い空気に、俺は知らずに引き摺っていたドラマの緊張感が抜けきっていることに気付いた。
俺のホームグラウンドはやっぱ此処だな、なんて感慨に耽っていたらメイクルームからわざわざ足を運んでくれたらしいメイクさんが「皆ー、もうそろそろこっち来てくれるー?」と呼ぶので最後まで残っていた亀が着替え終わるとメンバー総出で楽屋を出た。
其れからヘアメイクを済ましスタジオへ移動すると撮影が始まり、メンバーが入れ替わり立ち代わりでフレームに納められ同時にインタヴューも行われる。
其れらが終わると本日のメニューはオールクリア――つまり、勝負は此れからだ。
メイクを落とし衣装を着替えて帰り支度を各々で進めていたら、やはりというべきか一番初めに赤.西が動いた。
「なーなー、亀。今日、俺んとこ泊まりに来いよ」
「え、何で?」
「何で、ってそりゃ――」
「ダメだよ亀ちゃん! 赤.西のところなんか泊まりに行ったら玄関で食われるよ!!」
「ちょっ、其処までがっつかねぇよ!」
「いーや、信用出来ない。ね、亀ちゃん、ウチに来なよ」
「そういう上田だってどうだか。カメ、ウチのホームシアターで映画見ようよ」
「そんな防音設備バッチリの場所で何する気だっつの。亀、俺ん家来いって」
あーあー、予想してたけどマジで皆して下心丸出しのお誘い攻勢かけてるよ。
全く、此れじゃ亀をウチに招待するのにかなり骨が折れるなぁ……、なんて思っていたら。
「御免、今日は中.丸のとこ行く約束なんだ」
其の亀の発言に俺は思わず声を上げかけたけれど、其れを瞬時に察知した亀が片目をぱちりと閉じて合図するから俺も当然知っていたみたいな態度で「ああ、そうなんだよ。悪いな」と言った。
すると、メンバーは各々に「えー!」だの「マジで?」だのと不満一杯のリアクションをしてみせる。
けれど、亀は其れに対して笑いながら「御免ね、また今度」と言って徐に俺の右腕に両腕を絡ませてから上目遣いで「じゃ、行こっか」と促してきた。
「あ、ああ、そうだな」
「じゃ、皆お疲れー」
「お先ー」
そんな挨拶を残して、俺と亀は腕を組んだまま楽屋を出て行き駐車場を目指した。
けれど、途中である疑問が浮かんで俺は念の為と亀に問い掛ける。
「そういや、亀は自分の車で来たの?」
「んーん、移動車。え、でも中.丸は自分ので来たんでしょ?」
「いや、俺も移動車」
「あ、そうなんだ。じゃあタクって帰ろっか」
駐車場ではなくスタジオビルの出口に出ると亀はそういうや否や俺の腕からするりと細い両腕を抜いて数歩進み出て幹線道路を覗いた。
すると、間も無くタクシーが走り寄って来て亀はしなやかに腕を掲げ停車させると「中.丸」と俺を呼ぶので先に乗り込んだ亀に続く。
亀の隣に俺が納まるとドアが自動で閉まり其れを合図に運転手の「どちらまで」という常套句が投げかけられて、俺は迷いも無く自宅付近の地名を口にした。
其れを聞いて了解した運転手が車を走らせ始めると、亀はこてんと急に俺の肩に頭を乗せてくる。
俺が小さく「どした?」と訊いたら、亀は簡潔に「ねむい……」と本当にぼんやりとした声音で言うので俺は「じゃあ着くまで寝てな」と言って片手で優しく髪を梳いた。
すると、本当に眠くて仕方なかったらしく間も無くくぅくぅという可愛らしい寝息を立て始める。
俺は其の命の証のようなささやかな呼吸音を聞きながら、ゆっくりと窓の外を滑る景色を見ていた。
やがて、タクシーが指定した場所辺りに着たので俺は細かなナビをして自宅マンション前まで着けさせ料金を払う。
其れが済むと、寝ているのを起こすのは可哀相だと俺はそーっと優しく亀を抱き締めてタクシーを降り、外に出てからはお姫様抱っこに体勢を直してマンション内へと入っていった。
動き難いながらも亀の体重の軽さに救われつつ何とか自室にまで辿り着き取り敢えず其の痩躯をソファに寝かせる。
そして、俺がコートを脱いでソファセットの一角に放り投げたら、其の微かな音で亀は目を覚ましてしまった。
「ん……」
「あ、御免。起こしちゃったな」
「んぅ……此処、ゆぅちゃんの部屋?」
「そうだよ。亀、取り敢えず上着脱いでさ、眠いならもう寝ちゃいな」
そうは言ったものの亀はまだ覚醒し切れてないらしく一応ソファの上に座りなおしはしたが、ぼんやりとしていて次の行動に移れそうに無い。
なので、俺はソファに座っている亀の前に膝立ちになって取り敢えず上着を脱がしに掛かった。
すると、亀はされるがままになりながら頭も上手く働いてないだろうにぽやぽやとした口調で訊いてくる。
「ゆーちゃんが……ここまで、運んでくれたの?」
「うん、そうだよ」
「重くなかった?」
「ぜーんぜん。寧ろ軽すぎてビビった」
俺がそんな科白を洩らしたら、上着を取り払われた亀が徐に右手を俺の胸に当てるから正直驚いた。
けれど、そんな俺の動揺に気付いていないのか、亀は少しの間胸に置いていた手を今度は腹に滑らせて言う。
「雄ちゃん、筋肉ついたね」
「ああ、ドラマの内容が内容だからね」
「其れだけ?」
「え、其れだけって?」
瞬間、亀の言葉が分からなくて素直にそう返したら、亀は悪戯っぽく笑って「ぴぃちゃんみたいに『好きな子を守りたい』とか無いの?」と訊いてくる。
其の態度が或る言葉を期待していることを表していて、俺は言葉ではなくぎゅっと目の前の細すぎる体を抱き締めた。
けれど、其れだけでは物足りないらしく亀は俺の首筋に懐くようにしながら甘えた声で願う。
「ゆーうちゃん。ゆって?」
其の舌足らずな話し方に庇護欲を駆り立てられて、俺は言わずに居ようと思っていた言葉を素直に吐露してしまった。
「亀を守りたいからだよ」
照れ屋な俺が珍しくストレートな言葉を発して其の柔らかな髪に唇を当てると、亀はくすくすと笑って「うれしい」と零した。
其の言葉を聞いて俺の方こそ嬉しくなって、続けてこんな言葉を言ってしまっていた。
「今まで以上に此れからもずっと和也を守るから。まずは23歳の和也を全力で守ってみせるよ」
さて、俺にしては珍しいこんな言葉を聞いて和也はどう返してくるかな、と思ったら意外な一言が発された。
「え、今日何日?」
「2月23日になって15分くらい、だけど……まさか忘れてた?」
俺の質問に和也は顔は上げないながらもこくりと頷いたので、俺は「え、じゃあ何で今日俺ん家来たの?」と訊いてしまった。
すると、和也はぽそぽそと何かを零していて、上手く聞き取れなかった俺は「御免、聞こえない」と言ったら和也はがばりと顔を上げて言い放った。
「雄ちゃんと離れてることが多かったから寂しかったの!」
「か、和也?」
「雄ちゃん不足で死にそうだったから、だから、だから……」
其の今にも泣き出してしまいそうな真っ赤な顔が可愛くて、俺はまず頬に口付けて次いで瞼、米神と唇を寄せると最終的にはキスをした。
其れは啄ばむようなものを数回繰り返しただけで、けれど俺は唇を離して和也の顔を覗き込む。
「ソファとベッド。続きはどっちが良い?」
随分意地の悪い質問だ、と思いつつも俺は「ん? どっち?」と和也に迫る。
すると、和也は先程の体制と同じ様に俺の腕の中に収まると首筋に懐きながら、ぽそりと「……べっど」と答えた。
其れを聞いて満足した俺は和也が抱きついてきている姿勢を其のままに抱き上げると悠々と寝室への進路を取る。
「うわ……雄ちゃん、凄い怪力」
「和也が軽すぎるんだよ」
和也の科白にも自らの言葉通りの事実にも苦く笑いながら、俺は華奢な体をベッドに横たえさせた。
「誕生日おめでとう、和也」
「うん、ありがと。今年一年も雄ちゃん大好きで居続けるから覚悟してね」
「望むところだよ」
可愛い宣言に嬉しくなって俺は満足感に満たされながら、和也の服に手を掛けた。
自分より人を優先してしまうことの多い子だから、此処はやはり恋人である俺が守ってあげるべきでしょう。
そんなことを勝手に決意しながら、俺はゆっくりと和也の体に埋没し二人でひっそりと甘い夜に溺れていった。
こんな夜が此れからずっと続けば良い……ずっと、ずーっと――。
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